一般的に、家族葬施設も商業施設であり、葬祭事業者が需要を見込んで建設します。そこで求められる要望に沿った設計をするのは設計者として当然ですが、建築家として2点の目的を掲げてデザインを提案しました。
1点目として、昨今、葬儀の小規模化、簡素化が進み、《葬儀とは何か?》という葬儀自体の意義が問われています。この施設での空間体験が、次の時代の葬儀の在り方を見据えたものになるようなデザインを提案しました。
2点目として、この施設のみの局所的で短期的な目的実現を超えて、地域の建築文化・環境形成の向上に寄与する長期的で広い視点に立った建築デザインを提案しました。
葬儀場が、臨終の場でもなければ、墓地や火葬場といった死の領域でもない、住宅街など生活領域に設置されるのは、葬儀の変容の歴史が生み出した日本的特徴です。そのために、葬儀場は外の世界と切り離された空間となりがちです。隣接する周辺環境のみならず、トポフィリアのような、その地域の人々と場所あるいは環境との情緒的な結びつきとも切り離されてきました。ここでは、それらを再び回復する事を目指しました。木柵のある縁側をめぐらせて、日本家屋のように状況に応じて、周辺環境との関係を調節できるようにしています。
山と日本海に恵まれたこの地では、日本海が、此岸と彼岸を分かつ感覚を持っているように感じます。そのため、自然な風合いの木柵と水庭で、海辺を類推させる空間を創り出しています。
周辺環境と切り離されずに、適度な関係性を保てる葬儀場のデザインが住宅地の景観の向上に貢献し、さらに、ここでの儀礼体験がこの地の葬儀文化に少しでも貢献できれば幸いです。
用途:家族葬施設|所在地:新潟県上越市|竣工:2019年|新築|延床面積:240.37u|協同設計:棚橋麻実